『きずな発刊によせて』日本カトリック移住協議会理事長・那覇司教 石神忠真郎
カトリック教会は、その名の通り世界五大州に広がっている一つの共同体である。その成員、すなわち信者が肌の違いや、国境を超えて一つになっている「きずな」は、「キリストの愛」である。 世界各国の信者はキリストの愛に迫られて、お互いに助け、助けられながら、この地上に神の国を築くために努力を続けている。カトリック教会の二千年の歴史は、それをあかししている。この相互扶助は、キリストご自身の宣教時代既に始まっていて、ルカ福音史家は次のように述べている。 「その後、イエズスは町や村を次々とめぐり、宣教し、神の国の福音をお伝えになったが、十二人の使徒もお供をした。そのほか多くの婦人たちもお供をした。彼女たちは、自分たちの財産を出し合って一同に奉仕していた。(八章の一〜三節) また、初代教会において、各地の信者は互いに助け合っていたことが使徒行録に明記されている。 「そのころ、数人の予言者たちがエルザレムからアンチオキアに下って来た。その一人、アガポという人が立って、世界じゅうに大ききんが起ろうとしていると、霊の働きによって予言した。果して、それは皇帝フラディウスの時に起った。そこで弟子たちはそれぞれの分に応じて、ユデアに住む兄弟たちに救援物資を送ることに決めた。そして、それを実行し、バルナバとサウロとの手に託して、長老たちのもとに送った。」(十一章の二十七〜三十節) 使徒パウロもコリント人への手紙で救援募金を依頼している。 「さて、聖なる人々のための募金については、わたしがガラテアの諸教会に指示したところに従って、あなたがたも同じようにしてください。……一週の初めの日には、いつも、あなたがたおのおのは、首尾よくもうけたものが何かあれば、手元にたくわえておきなさい。わたしがそちらに着いたら、あなたがたが適任だと認めた人たちに手紙を持たせて、皆さんの厚意によるものを届けにエルザレムに行ってもらいましょう。」(十一章の一〜二節)その後、数世紀を経て、中世以降のアジア、アフリカへの宣教は、ヨーロッパのキリスト教諸国の教会の人的、物的援助なしにはあり得なかった。そして、それは今日まで続いている。 我が国に例をとると、フランシスコ・ザベリオに続く切利支丹時代を始め、切利支丹復活後有年余の今日まで、主にヨーロッパや北米(アメリカ合衆国とカナダ)から派遣された男女宣教者に負うところ大である。そして、彼等を助ける母国の信者のおかげで多くの聖堂建設、教育、福祉事業その他の宣教活動が為されたのである。 わたしたちにとって、それは決して恥でもなく、また卑屈になるような負い目を感ずる必要もない。これが母なるカトリック教会の常道であるからです。一つの家庭において子は親に育てられ、弟妹は兄姉に助けられるのは当然であり、お互いに親身になって世話するのは、一つの家族の「きずな」からほとばしり出る美徳である。そのかわり、わたしたち日本の教会も色々なハンディキャップを背負いながら、外国の困っている霊的兄弟姉妹に、できるだけの助けとなってあげるのは、一つ共同体の成員として当り前のことではないだろうか。 事実、日本の教会はまだ布教国でありながら二百名余の男女宣教者を海外に派遣している。これは主に国際的な男女修道会のおかげである。一般信者も「布教の日」や「移住の日」の祈りと献金で、世界の布教国のためにつくしている。また、カリタス・ジャパンも多くの援助対象の中に、海外日本人宣教者の福祉活動をも加えることになった。従って、一般の方はカリタス・ジャパンに協力することによって、間接的に海外派遣宣教者がかかわっている現地の教会を助けることにもなるのである。 しかし、心ある信徒の間に、この種の一般的な方法だけでは満足しないで、もっと積極的に物心両面から、同胞の海外派遣宣教者たちを援助できないものかとの熱意が高まり、この度、ひろく同志をつのって、恒常的な支援態勢をととのえることになった。 「海外宣教者を支援する会」がそれである。 これに参加する方は、直接、海外の宣教者と交信したり、彼等を通じて近くまたは遠くの国々の兄弟姉妹と知り合い、祈り合い、助け合い、人間としての「きずな」を密にすることができるのである。 これこそ「キリストの愛」の実践であり、人類平和への道を現実に歩むことではないだろうか。 私はこの会の発起人の方々に限りない敬意を表するとともに一人でも多くの宣教者の友に恵まれんことを祈って止まない。 『会長就任の弁』フランシスコ服部比左治
私は日本カトリック移住協議会(財団法人)の一理事として理事会その他の会合に出席しており、そり専務理事梶川宏マリア会司祭の献身的な活動振りに対し常日頃深い尊敬の念を抱いて来たが、同司祭より「今回海外日本人宣教者(神父、修道士、修道女)を支援する会を設立することになったので、会長になってもらいたい」との申入れが突然あり、びっくりした。
第一回の打合せ会が去る九月一日に開催され、その席上「世界に生きる」と題する海外日本人宣教者の通信文をのせた小冊子を頂いたので、家に持ちかえり早速一読し、日本と異る気候風土、厳しい生活環境の海外各地に居住して宣教活動に挺身しておられる聖職者のご労苦に対し感謝の念を禁じ得なかった。 日本に居住して布教司故に一生を捧げておられる外国人宣教者の方々は、難解な日本語を苦労してマスターし、日本の風俗習慣にもなじみ、天に召された後はカトリック墓地の簡素なお墓の下に骨を埋めておら九る。日本人信者の私共はこれら外国人宣教者の御恩に対してどうして報いるべきであるか?同様の苦労を体験しつつ海外に於て宣教活動に献身中の日本人宣教者を物心両面に於て永続的に支援して行くことが一つの報恩行為となるであろうと思う。 敬愛する梶川神父の要請に応じて会長の大役を引受けてしまった私としては、本会が今後末永く永続的に維持され、順調に発展して行くように、日本人の方々が一人でも多く会員となって下さることを心から念願する次第である。 『海外宣教者を支援する会設立趣意書』今日、不幸にも世界には民族、人種的偏見、憎悪と誤解、相互信頼の断絶などから争いが生まれ、精神的、物質的な飢えが満ち満ちていると言っても過言ではありません。このような全地球的危機とも言える時、一九八一年二月、カトリック教会史上、はじめて来日された教皇ヨハネ・パウロ2世は、日本のみならず欧米、中南米、アフリカ、アジア、中近東など、宗教、社全体制の異なる国々にも自ら宣教の足跡を印され、その「愛と平和の使徒」としての業績は、キリスト信者のみならず全世界に大きな感動を与えています。 かつて、被宣教国であった日本も、今日、約二百数十名の日本人宣教者たちが、世界三十八の地域に派遣され、言語、風俗、習慣の違い、偏見、貧富の大きな落差の中で、遠くは十二使徒、近くは教皇ヨハネ・パウロ2世に做って、キリストの愛と宣教の業に従事し、それぞれの地域社会に献身しています。 しかし、これら宣教者たちはその実践活動の中で、さまざまな困難に直面し、精神的、物質的援助が求められているのが実情です。 私どもは宣教者を支援することが、ひいては、国際交流、世界平和へ貢献できることを確信し、「海外宣教者を支援する会」を設立することにし、すでに全国司教会議の承認を受けています。世界の人々との出合いを大切にし、人々の幸せを願い、キリスト信者のみならず、広く、人道的立場に立つ多くの人々の賛同を求め、協力をお願いする次第です。 一、目的「海外宣教者を支援する会」(以下会」と言う)は、海外に日本から派遣されている宣教者を通して世界の人々との交流、連帯を密にし、世界各地域社会に奉仕する宣教者に対して精神的、物質的支援を行なう。 一方、日本国内に於ては、宣教者の活動を広く人々に知らせ理解を深め、多くの人々の支援の輪を広げることを目的とする。 二、活動 (1) 日本の社会、教会に宣教者を通じての国際交流と福音宣教の精神を知らせ、宣教者の活動に理解と支援を求めるため、広報誌(季刊)の発行、講演会(随時)の開催、その他の広報活動を行なう。 (2)募金 海外宣教者の活動を支援するため、継続的な募金活動を行なう。 三、組織母体は財団法人日本カトリック移住協議会とする。 会員は本「会」の設立趣旨に賛同する個人会員(会費一口、一カ月一〇〇〇円)、法人会員(会費一口、一カ月一〇〇〇〇円)その他任意の寄付を広く募集し活動を拡めてゆく。 『海外宣教者を支援する会組織規定』一、名称・所在地「会」の名称は「海外宣教者を支援する会」とし、事務局を「〒102東京都千代田区六番町10ノ1財団法人日本カトリック移住協議会(TEL03-262-2663)内に置く。 二、役員「会」の運営を円滑化するため、次の役員をおく。 (1)名誉会長 一名 日本カトリック移住協議会理事長がこれに当る。 (2)会長 一名 (3)理事 七名 (会長と事務担当理事を含む) (4)監事 二名 (5)事務担当理事 一名 日本カトリック移住協議会専務理事がこれに当る。 三、会員 「会」は本「会」の趣旨に賛同する個人会員、法人会員、および賛助会員によって構成される。 『海外宣教者を支援する会のあゆみ』一九八二年1月 日本カトリック移住協議会、数年来教会内から要望のあった海外日本人宣教者への援助活動として「海外派遣日本人宣教者を支援する会」の発足を1982年度事業計画に盛り込む。 3月15日 日本カトリック移住協議会編・海外日本人宣教者のたより『世界に生きる』4000部を発刊、近来にないベストセラーとなり、募金や援助の申出など大きな反響が拡がる。 5月 日本カトリック移住協議会理事長石神忠真郎司教「海外日本人宣教者を支接する会」結成を呼びかける。 5月31日〜6月5日 全国司教会議開かれる。同会議に「海外日本人宣教者を支援する会」の創設、募金などの活動計画を諮り、全司教により、設立承認される。 7月〜「世界に生きる」発刊を契機に司祭、修道会有志により超修道会的連帯により「海外宣教を考える会」が発足。この間、支援する会への協力申入れ、基金、激励など相次ぎ、支援する会の実現への機運高まる。 9月1日「「海外日本人宣教者を支援する会」の設立を考える会(発起人会)」初会合(13名)。討議の上、「会」の発足を確認。会長に服部比左治氏(外務省参与・大使)を選出。発起人各自の業務担務を決める。 9月19日「海外宣教者を支援する会」の発足を、カトリック新聞9月19日号に掲載。具体的な広報活動を開始。 9月21日「海外宣教者の話を開く会」をイグナチオ教会・かつらぎ会館ホールで開き、マルゴット神父、修道女2人から宣教他の実情を聞く。参会者約30人。 10月18日「海外宣教者を支援する会」の第2回会議。「設立趣意書」「組織規定」等の成文化承認。広報誌「きずな」(季刊)(B5版・タイプオフセット印刷・6ページ〜10ページ)の発行を決める。第1号は3UOO部年内発行を目指すことになった。 11月29日〜今日に至る 広報誌「きずな」創刊号発行。折から開催中の、全国司教会議へ呈示。 |